「高次脳機能障害」とは
高次脳機能障害とは、交通事故などによる脳外傷、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、脳炎・低酸素脳症などの病気が原因で、脳が部分的に損傷を受けたためにおこる障害です。
高次脳機能障害の症状には、何度も同じ事を話したり質問したりする「記憶障害」、気が散りやすく、仕事上でのミスが多くなる「注意障害」、感情のコントロールができない「感情障害」のような様々な症状があり、日常生活にさまざまな困難が生じます。
外見から障害があることが分かりづらいため、周囲から誤解を受けたり、本人や家族の負担が大きなものになっています。
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1.高次脳機能障害の種類
①注意障害
注意能力のどの側面に障害があるかによってその症状が異なってきます。外からの刺激に対して、注意を向け持続したり、変換したり、また、無関係の刺激を抑制したり、あるいは同時にいくつもの刺激に注意を向けたりすることの障害です。
- まわりの状況に気が付かない
- 集中できない
- 周囲のことにすぐ気を取られる
- 落ち着かない
- 同時にいくつものことができない
- ミスが多く効率が上がらない
②記憶障害
記憶とは、「新しい経験が保存され、その経験が後になって、意識や行動の中に再生されること」と定義されます。
エピソード記憶、意味記憶、手続き記憶などがありますが、この中でもおかされやすいのはエピソード記憶です。
高次脳機能障害では、新しいことが覚えられず、今見たこと、聞いたこと、したことを忘れてしまいます。病気や事故にあう以前にさかのぼって記憶がなくなることもあります。
- 何を食べたか忘れる
- どこにしまったか忘れる
- 何度も同じことを言う
- 買い物に行っても何を買うのか忘れてしまう
- 忘れていることさえ忘れる
③遂行機能の障害
目的を持った一連の活動を段取り、手順を考えて効率よく行うことの障害です。
この機能をうまく働かせるためには、記憶、言語、思考、推理、判断などの機能をまとめて使えることが必要です。
- 自分から行動が開始できない
- 計画ができない
- 順序良くまとまった形で実行できない
- 出来ばえを気にしない
④社会的行動と情緒の障害
状況に適した行動が取れない、感情のコントロールがうまくできない、欲求が抑えられないといった障害です。
- イライラしやすい
- 怒りっぽい
- 一つのことにこだわる
- すぐパニックになる
- 何もしようとしない
- 過度になれなれしい
- 子供っぽい
- ほしいものが我慢できない
⑤言語とコミュニケーションの障害
失語症
失語症は言語中枢が損傷されることによって起こる言語そのものの障害です。
理解がよく、とつとつと話すタイプと、なめらかだが、言い誤りの多い、理解の悪いタイプがあります。
- なかなか言葉が出ない
- 言い間違いをする
- 読み書きができない
- 簡単な計算ができない
コミュニケーションの障害
お話はできるのに、相手の意図やユーモアが通じないなど、意思疎通に問題が生じることです。
- まとまりがない
- 脱線しやすい
- 言葉どおりの理解しかできない
- 感情やニュアンスが伝わらない
- 共感ができない
⑥失認
見ること(視覚)、聞くこと(聴覚)などの機能に問題はないのに、それが何であるのか分からないのが失認です。
- 見えているのに、そのものが何であるか分からない
- 声を聞かないと誰なのか分からない
- 絵を見て全体のまとまりが分からない
- 聞こえているのに、何の音か分からない
⑦半側空間無視など
大脳の損傷された側と反対の側の空間、あるいは体における出来事を無視することです。
左(右)側にあるものに気がつかないのが半側空間無視、どこも悪いところはないというのが病態失認です。
- 左(右)側にあるものを見落とす
- 左(右)側にぶつかって歩く
- 麻痺があるのにないようにふるまう
⑧動作と行動の障害(失行)
麻痺はないのに、簡単な動作、一連の動作がうまくできないことです。
- 歯ブラシを反対に持つ
- お茶を入れる時に、順序が逆になる
- 洋服を着るときに袖口から手を入れたり、後ろ前逆にしたりする
⑨地誌的障害
熟知している場所で道に迷うことです。
- よく知っているはずの建物や風景が分からない
- 道順や方角が分からない
- 自宅内で迷いトイレに行けない
⑩自己意識性の障害
自分自身を客観的にとらえることができない、障害の認識ができない状態です。病識欠落もこの中に含まれます。
- 事故や病気の前のように何でもできると思う
- 逆に何もできないと思う
2.治療方法
高次脳機能障害は、手術治療や内服治療、点滴治療といった確立した治療方法がありません。
社会復帰を目指してリハビリテーションを行うことが中心となります。一度低下してしまった高次脳機能は徐々に改善していきます。
多くの場合、発症後1年程度の時期までは著しい改善が見られます。その後は改善のスピードが鈍り、発症後2年程度経過するとほぼ症状が固定してしまうと言われています。
よって、早期に適切なリハビリテーションを行うことが重要となり、社会復帰の近道になります。
障害認定基準
認定要領
(1) 症状性を含む器質性精神障害(高次脳機能障害を含む。)とは、先天異常、頭部外傷、 変性疾患、新生物、中枢神経等の器質障害を原因として生じる精神障害に、膠原病や内分泌疾患を含む全身疾患による中枢神経障害等を原因として生じる症状性の精神障害を含むものである。
なお、アルコール、薬物等の精神作用物質の使用による精神及び行動の障害(以下「精神作用物質使用による精神障害」という。)についてもこの項に含める。
また、症状性を含む器質性精神障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定する。
(2) 各等級等に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりである。
(3) 脳の器質障害については、精神障害と神経障害を区分して考えることは、その多岐にわたる臨床症状から不能であり、原則としてそれらの諸症状を総合して、全体 像から総合的に判断して認定する。
(4) 精神作用物質使用による精神障害
ア、 アルコール、薬物等の精神作用物質の使用により生じる精神障害について認定するものであって、精神病性障害を示さない急性中毒及び明らかな身体依存の見 られないものは、認定の対象とならない。
イ 、精神作用物質使用による精神障害は、その原因に留意し、発病時からの療養及 び症状の経過を十分考慮する。
(5) 高次脳機能障害とは、脳損傷に起因する認知障害全般を指し、日常生活又は社会生活に制約があるものが認定の対象となる。
その障害の主な症状としては、失語、失 行、失認のほか記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などがある。 なお、障害の状態は、代償機能やリハビリテーションにより好転も見られること から療養及び症状の経過を十分考慮する。
また、失語の障害については、本章「第6節 音声又は言語機能の障害」の認定要 領により認定する。
(6) 日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会 的な適応性の程度によって判断するよう努める。
また、現に仕事に従事している者に ついては、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと 捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で 受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常 生活能力を判断すること。